大脳皮質が広がると機能は増えるか?想像してみる。〜マイクロカラムが面白そう。

 ネタを振られたので、「大脳新皮質のカラムの数が増えることで可能になるような情報処理って何なんでしょう??」から始まる一連のツイートにコメントしてみる。

suzuki190
大脳皮質のシワって頭蓋骨内の限られたスペースの中でできるだけたくさんのカラムを作ろうとした結果なわけですよね。カラムの数が増えることで可能になるような情報処理って何なんでしょう??RT @dhtanaka: マウスでfoldingがなぜなくなったのかはとても興味深いですよね。
dhtanaka
これは完全に勉強不足で分からないです。丸山あたりが詳しいかな?→ @symphonicworks RT @suzuki190 大脳新皮質のカラムの数が増えることで可能になるような情報処理って何なんでしょう??@TuneHike

 カラム構造とは「大脳皮質で見られる同じ特徴に応答する(皮質の深さ方向に)縦に並んだ細胞群」ですね。脳の機能局在論の最小単位とも考えられます。ネコや霊長類の視覚野には、眼優位性、方位選択性、方向選択性などのカラム構造が存在します。これらのカラム構造は発達期に再編成され形作られます(Keil et al., 2010)。おそらく神経回路の可塑性によって入力依存的に(Yoshimura et al., 2008; Smith et al., 2009)。
 視覚野にカラム構造の無いマウスでも物は見えているので、カラム構造は無くてはならないというものではないのでしょう(Horton and Adams, 2005)。たぶん、何らかの理由で互いに相容れない(排他的な)性質、たとえば縦線または横線特異的に応答する性質をもつ細胞などが限られたスペースに存在した場合に自己組織的に生じるものでしょう。シミュレーションして神経細胞の基本的な性質からカラム構造が自己組織的に生じる可能性を示した例もありますね(Miller et al.,1989)。この現象にはおそらく、樹状突起の範囲、軸索の投射距離、興奮性か抑制性かの別、シナプス可塑性の性質などが関連するんじゃなかろうか。
 大脳皮質のカラム自体はあってもなくても良いとすると、大脳皮質のカラムの数というよりも、大脳皮質の面積が接線方向に広がるとどんな機能的な意義があるかという点について考えたほうが実がありそうな気がします。

dhtanaka
ちょっと思い出したのですが、例えば視覚ではカラムごとに反応する刺激が異なりますよね。だから単純により多くの多様な刺激に対応出来るというのはあるのではないでしょうか。RT @suzuki190 カラムの数@TuneHike @symphonicworks
TuneHike
賛成。もっと言うと、感覚処理の意味では、ある程度計算を進めて特徴抽出したパラメーターをマップする空間だと認識してる。 @dhtanaka 単純により多くの多様な刺激に対応出来る @suzuki190 @symphonicworks
dhtanaka
実際、その種で重要な情報を担う皮質領野は広いですよね。マウスはヒゲ、カモノハシはクチバシの電気センサーに対応する領野が広い。この辺は@TuneHikeが詳しいかな。RT @suzuki190 カラムの数 @symphonicworks
suzuki190
一次視覚野のカラムが増えたら処理できる解像度が上がったり、より細かく傾きの違いを検出できたりしそうな気はしますね。RT @TuneHike: 賛成。もっと言うと、感覚処理の意味では、ある程度計算を進めて特徴抽出したパラメーターを@dhtanaka @symphonicworks
suzuki190
あと齧歯類と比べると霊長類なんかはそもそも領野の数が多いですよね。単純に齧歯類では境界があいまいで区分できないだけなのか、表面積が拡大すると領野が増えるのかはちょっと興味があります。RT @dhtanaka: @TuneHike: @symphonicworks

 大脳皮質が接線方向にが拡大した場合、見かけ上のカラム構造の数は増えるでしょう。数だけでなく、マップ可能な特徴が増える可能性もあります。カラム構造は相互接続しており、より下流のカラムでは、上流のカラムの特徴を組み合わせた特徴をマップすることができるでしょう。実際には、より大きな単位である領野間の投射により、モードの異なる感覚入力(視覚と体性感覚など)の両方の特徴をマップする細胞も発見されてます(Rizzolatti et al., 1981a, 1981b)。これらのことから推測するに、大脳皮質の拡大はより高次の情報を抽出する新たな領域を生じる可能性なんかもあるかも。


ついでに、見つけたツイートにもコメント。呼ばれてないけど(笑)。

dhtanaka
進化系譜から考えると、マウスの大脳新皮質はヒトのそれの原始型ではなく、退化型である可能性が高い。

 齧歯類の脳は霊長類とは異なる進化を遂げたという仮説に無理やり解釈を与えてみましょう。共通の祖先から分岐した後、それぞれに選択圧がかかって、霊長類の脳は大型化、齧歯類のは小型化した。それぞれに有利な点が想像できます。

  • 大型脳(霊長類)
    • 高次の情報を抽出するなどの多様な機能を獲得。遅い。複雑。
    • よく考えて獲物を狩る。
    • 前述のように、脳の大型化、大脳皮質の表面積の拡大に伴ってより高次の情報を抽出する機能を獲得した可能性があります。
  • 小型脳(齧歯類
    • 少数の最低限必要な機能に最適化。速い。単純。
    • いらんことを考えてると食われる。
    • マウス脳にはカラム様の構造として体性感覚野のバレル構造が知られていますが、ネコや霊長類とは異なり、視覚野にカラム構造は見出されていません。バレル構造は、マウスの体性感覚野のひげから入力を受け、他の体の部位からの入力を受ける領域と比べて極端に大きいんですね(Petersen 2007)。これは感覚入力をひげの感覚情報に特化し、ひげからの入力を確実に他の領野へ伝えるのに適しているでしょう。脳が最低限必要な機能に最適化された例とも考えられます。

dhtanaka
マウス大脳新皮質の興奮性神経細胞は、同じ幹細胞から生まれた細胞同士がより強く結合している。抑制性神経細胞でどうなのかはいまだ不明。霊長類でどうなのかもいまだ不明。
dhtanaka
Natureで納得。神経発生の知識と電気生理の神技の組み合わせで実現された卓越した仕事だと思います。http://ow.ly/3xYvD RT @symphonicworks 興味あり。論文教えてもらえないですか〜

 この論文(Yu et al., 2009)によれば、同じ神経前駆細胞から生まれた細胞は互いに結合しやすい。その結果生じるマイクロカラムは脳の基本単位と言えるかもしれない。前述のように、シミュレーションによればカラム構造は物理的な構造によらず自己組織的に構築され得る(Miller et al.,1989)。自己組織化の結果、似たような性質のマイクロカラムが寄り集まることで、見かけ上のカラム構造を作っているに過ぎないのかも。個人的にはこのマイクロカラムを含む、局所回路の研究が面白いと思う(Ikegaya et al., 2004; Yoshimura et al., 2005; Yassin et al., 2010)。
 たとえば、「一方向性の結合は双方向になる、または、それ以外の理由で強い双方向性の結合を生じる(Yassin et al., 2010)。神経回路はスモールワールドネットワークを形成する(Watts and Strogatz, 1998; Yu et al., 2008; Bonifazi et al., 2009)。」などの局所回路の基本条件だけで自己組織的にカラム構造ができるのか。その可能性と限界なんかをシミュレーションすると面白そう。


ほなまた


参考文献

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