経験依存的可塑性におけるスパインの運動性は機能変化と相関する。ただし光暴露直後は除く

論文紹介#18
可塑性研究の大御所のひとり、Prof. Mriganka Surのラボから一報紹介。


J Neurosci. 2010 Aug 18;30(33):11086-95.
Structural dynamics of synapses in vivo correlate with functional changes during experience-dependent plasticity in visual cortex.
Tropea D, Majewska AK, Garcia R, Sur M.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20720116


 まずはこの論文で使われたThy-1 GFPマウスと呼ばれるトランスジェニックマウスラインについて、どのへんが便利なのかちょっと解説。このThy1-GFPマウスは一部の細胞にまばらにGFPなどの蛍光タンパク質を発現するのが特徴で、たとえばこの論文で使っているGFP-Mというラインは大脳皮質では5層の錐体細胞がまばらに染まります(他のラインなどについてはFeng et al., 2000参照。これらはThe Jackson Lab.から購入できるようなので興味のある方は購入してみると良いですよ。)。脳の中は細胞だらけなので、仮にすべての細胞がGFPを発現すると、蛍光顕微鏡では形を判別できないのですよ(どこからどこまでがひとつの細胞かわからないから)。その点、Thy1-GFPマウスでは一部の細胞しか光らないですから、GFP陽性細胞の密度が低い部分を選べば、ひとつひとつの細胞の形を詳細に観察できるわけです。しかもliving animalで。
 この動物の脳を二光子励起蛍光顕微鏡などで経時観察することで、樹状突起スパインの形態と運動を観察できます。スパインは樹状突起上の微小構造で、発達にともなってFilopodia(|), Thin(I), Stubby(Π), Mushroom(Ω)と形を変えます(括弧内は形のイメージです)。発達の初期によくみられるFilopodiaは活発に動き、Mushroom型のスパイン(ちなみに、単にスパインと言った場合はMushroom型を指すことが多いです。)などはあまり動かないことが示されています(Majewska et al., 2006)。
 著者らはこの手法とIntrinsic signal optical imaging(Kalatsky and Stryker, 2003)を組み合わせて使うことで、機能と構造を並行して観察しました。この研究では、暗室飼育した動物と通常飼育したものの間で、視覚入力に対する応答と樹状突起スパインの形態及び運動性をそれぞれ観察して比較しました。その結果、暗室飼育した動物では通常飼育したものと比べて、1)視覚入力に対する応答が弱かった、2)スパインの運動性が高かった、3)FilopodiaおよびThin型のスパインの割合が多かった、という結果を得ました。総じて暗室飼育の動物では未熟な応答性とスパインの形態が見られたわけですね。
 まぁここまでは予想通り。実は面白いところは次の点なのです。この応答性とスパイン形態の相関は、暗室飼育から通常飼育(光に暴露した状態)に移した直後にだけ崩れたというのです。光暴露の直後の数時間、スパインの形態及び運動性は未熟な様相を呈していたにもかかわらず、一時的に応答が強い状態になったのですね〜。興味深いですね〜。どうなってるんでしょうね〜。まぁ両者が単純に一対一対応ではないってことは言えるでしょう。詳細な結果については論文を読んでくださいな。


ほなまた
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参考文献


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