自由に泳ぐ魚の動きと神経細胞の発火活動を同時に観察する

論文紹介#4
はい今週の一報です。


Nat Neurosci. 2010 Apr;13(4):513-20. Epub 2010 Mar 21. Monitoring neural activity with bioluminescence during natural behavior. Naumann EA, Kampff AR, Prober DA, Schier AF, Engert F.


Technical Reportっていうやつですね。こういう技術的なお話って好きなんですよね〜。

この論文ではGFP-apoAequorinとnon-imaging techniqueがポイントなのでこの2点について解説します。

GFP-apoAequorinはGreen fluorescent protein(GFP, 緑色蛍光タンパク質)とapoAequorinの融合タンパク質です。この二つのタンパク質はオワンクラゲが発光するときにはたらくタンパク質です。apoAequorinはそれ自身が基質(coelenterazine, CLZN)を酸化するときに青色光を発します。このとき、すぐ近くにGFPがあると、apoAequorinの発する青色光がGFPの励起光となり緑色蛍光を発します。つまり励起光を外から当てなくても緑色に光るわけです。このapoAquorinによるCLZNの酸化反応はカルシウムイオン濃度(100 nM ~ 10 uMの範囲)に応じて起きます。そのため、この融合タンパク質GFP-apoAequorinはCLZN共存下で優秀なカルシウムイオンセンサーとして働きます。これまでに知られているGFPベースの蛍光タンパク質を用いたカルシウムイオンセンサーと比べて、GFP-apoAequorin /w CLZNは低バックグラウンドでS/N比が高いそうです。励起光が不要なためセンサー以外のタンパク質などによる自発蛍光を気にしなくて良いからだと思います。基質が必要なのがちょっと面倒ですね。

non-imaging techniqueで発光を観察するというのは直感的に分かりづらいのですが、CCDをフォトンカウンティングモードで使って視野内で発生した光子の数を数える方法のことを指すようです。つまり、空間解像度が1x1であるため画像を取得するわけではないということなのでしょう。著者らは特定の細胞(hypocretin/ orexin(HCRT)を発現する細胞, HCRT neuron)でのみGFP-apoAequorinを発現させ、記録後に蛍光や発光をもとにそれを発現する細胞群を同定していますが、どの細胞がどのタイミングで発火したのかは不明です。そのため、この方法では細胞が発火する順番まではわからないです。ちょっと残念ですね。とはいえ、この方法は時間解像度は高い(10 msくらい?)ので、自由に動き回る動物で、遺伝子によって同定された細胞群の発火を動きと関連づけることが可能になりました。より特異的なプロモーターを用いることで、個別の細胞を観察するという手もあると思いますが、それよりも、発光の色が異なるGFP-apoAequorin変異体を同時に別々の細胞へ導入して、この実験系に適用することで、動きの種類と細胞の種類およびその発火順を関連づけるとか、おもしろそうですね〜。


ほなまた


論文紹介#3 覚醒ラットの大脳皮質で局所細胞外電位(LFP)とニューロンの発火活動は閾値下の相関を示す
論文紹介#2 平面上の微小なNGF濃度勾配は、方向転換(turning)よりも相対的な成長度(growth-rate)の調節によって軸索を誘導する。
論文紹介#1 局所的なEph密度の上昇がシグナリングを引き起こす。ほか