平面上の微小なNGF濃度勾配は、方向転換(turning)よりも相対的な成長度(growth-rate)の調節によって軸索を誘導する。

論文紹介#2
元のタイトルの方が短かったですね。
今回紹介する論文はこちら。


Axon guidance by growth-rate modulation
Duncan Mortimer, Zac Pujic, Timothy Vaughan, Andrew W. Thompson, Julia Feldner, Irina Vetter, Geoffrey J. Goodhill
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Mar 3.

僕が密かに論文をフォローしているGeoffrey J. Goodhill教授のグループからまたおもしろそうなのが出ましたよ〜。
この方は、軸索誘導(Axon guidance)、特に濃度勾配に依存した誘導の仕組みをモデル化する仕事をされてます。基本的には数学モデルで軸索誘導の現象を説明するというアプローチです。ほいで、少し前におもしろい実験系を開発したんですよ〜。神経組織を培養するゲルの上に軸索誘導因子の濃度勾配を精密に形成する系でしてね、その方法がね、たんぱく質用インクジェットプリンタ(Rosoff et al., 2004)なのですよ。僕のやっていたことと発想が近いんですね〜(Maruyama et al., 2009)。そのインクジェットプリンタで描いた誘導因子(今回はNerve growth factor, NGF)の濃淡の上で神経組織を培養すると、細胞から出た軸索が伸びたり曲がったりするわけですね。ほんで、その結果を精密に解析することで軸索誘導の仕組みを調べるってわけです。今回の研究はこれと、軸索の曲がり具合を計る(定量化する)画像解析の技術(Meijering et al., 2004)を組み合わせて、2500個の後根神経節(Dorsal root ganglion, DRG)から伸びた数百本/個の軸索の曲がり具合を調べたのですよ。その結果、平面上の微小なNGF濃度勾配は、方向転換(turning)よりも成長度(growth-rate)の調節によって軸索を誘導することが明らかになりました。
彼らは証拠として以下の結果を示しました。
1、浅いNGF濃度勾配の上でDRGは濃度依存的な伸長を示したが、軸索の方向転換は示さなかった。(特定の濃度勾配の上で、濃度の高い方に向いた軸索はよく伸びたが、濃度の高い方に曲がる例は少なかった。)
2、単にNGF濃度の絶対量によって伸長を示すわけではない。(単に軸索の伸長量がNGFの濃度に相関するわけでなく、軸索はNGFの濃度勾配を検知している。)
3、急なNGF濃度勾配に向かってDRGの軸索は方向転換した。(過去の知見どおり。)

つまり、一種類の軸索誘導因子が濃度勾配の程度(急か緩やかか)によって異なる方式(方向転換か成長度か)で軸索を誘導するというわけですね。
まぁ、ちょっとマニアックでしたかね。
軸索誘導はまだまだ奥が深いですね〜。
ほなまた。


参考文献
1. Computational Neuroscience Laboratory
2. Rosoff, W.J., Urbach, J.S., Esrick, M., McAllister, R.G. Richards, L.J. & Goodhill, G.J. (2004). A new chemotaxis assay shows the extreme sensitivity of axons to molecular gradients. Nature Neuroscience, 7, 678-682.
3. Maruyama T, Matsuura M, Suzuki K, Yamamoto N (2008) Cooperative activity of multiple upper layer proteins for thalamocortical axon growth. Dev Neurobiol 68(3): 317-31.


論文紹介#1 局所的なEph密度の上昇がシグナリングを引き起こす。ほか